この記事は『臨床アートセラピー 理論と実践』(関則雄/日本評論社)を参考にしています。
Contents
アートセラピーとは
アートセラピーとは、描画やコラージュ、粘土などアート制作によって感情表現を行い、
その作品を通してさまざまな心のケアを行なっていく療法です。
アートセラピーの良いところは、
気持ちをことばでうまく表現できない幼い子どもや老人、
精神的に問題を持つ状態の人でも、
自己表現によるコミュニケーションができる点です。
また、作品として外在化するので、他者とシェアリングできること、
距離をもって自分の感情や思考を眺め、自分で気付きを得ることができます。
アートセラピーの2つの視点
アートセラピーには次の2つの考え方があります。
- アート行為自体が治療的である(Art as Therapy=治療としてのアート)
- 精神療法のひとつとしてアートを利用する(Art Psychotherapy=アート心理療法)
Art as Therapy=治療としてのアート
芸術行為は、それが生まれた昔から“癒し”と結びついていました。
アーティストが自分の問題を作品に“昇華”させることで、
人をも感動させる作品を生み出すこともできます。
創作では、モチーフ、素材、構図、配色などを自分で選び、
作りながら修正し、完成させていきます。
その過程での葛藤や問題解決法は、
その人の現実での葛藤や問題解決法と対応関係にあると考えます。
制作の中で、さまざまな問題解決法を知り、試し、
達成感やコントロールの感覚を得ることは、
現実の問題への気付き、癒しのきっかけとなる。
つまり、「アートの制作過程そのものが治療である」という視点です。
Art Psychotherapy=アート心理療法
もう一つの「Art Psychotherapy=アート心理療法」の立場では、
できあがた作品を通して、アートセラピストとクライアントのあいだで
ことばによる治療的やりとりを行います。
ここでは、作品はクライアントの心の投影物となります。
この2つの視点は、相容れない立場ではなく、
アートセラピーにおいてともに必要な視点です。
このどちらに重きをおくかは、クライアントの状況に応じていく必要があります。
アートセラピストの役割
アートセラピストの役割は、大きく次の2点です。
- 安全で守られた環境、素材を用意し、安心して創作できるようにする
- 制作過程、完成作品を通して、本人の気付きをサポートする
安全で守られた環境、素材
アートセラピー場で必要なのは、
クライアントが安心して自己表現をおこなえる環境です。
そのために、時間やルールなどの枠をつくります。
落ち着いた環境、メンバー構成、用意する素材に留意します。
クライアントの精神状況によっては、
感情が出すぎてしまうなど、向かない素材もあります。
気付きのサポート
アートセラピーの役割は、
アートセラピストが「診断し、治療する」というより、
クライアント自身の気付きによる変化をサポートすることです。
作品は、クライアントの内部の小宇宙から生まれたものであり、
新たな気付きによってクライアント自身の手でつくりかえることができます。
コントロールの主権を取り戻し、
再びアートとして自分の宇宙に取り入れることができるのです。
アートセラピーは、“治療を受ける”“癒される”という受身の療法ではなく、
本人が癒しの主体であるという人間復権の主体的な療法であるといえるでしょう。(関則雄)